日本能率協会の経営情報誌『JMAマネジメント』の誌面から「役員に必須の会計知識とガバナンス」全7回の連載をお届けしてまいります。
本連載は監査法人の仕事に精通する伊藤浩平氏(公認会計士・税理士)、ならびに、製造業の利益管理やIT活用に精通する経営コンサルタントの本間峰一氏(中小企業診断士)に執筆いただいた全7回の連載です。
ACEコンサルティング株式会社 公認会計士、税理士
伊藤浩平 氏
財務会計上の利益と税務上の所得との違い
会計事象を正しく理解するには、会社法や金融商品取引法で定められた財務会計(簡便的には通常の企業の決算書を作成するための会計制度とご理解ください)と、税法で定められた税務会計の違いを把握することが重要です。税務会計は、法人税の課税対象となる所得(「課税所得」といいます)を求めるための会計ですが、財務会計を基礎としながらも、課税の公平性や政府の政策目的などを達成するために、財務会計から修正が加えられています。 財務会計での損益計算書は、読者の方もご存じかと思います。
法人税額 = 課税所得 × 法人税率
(法人税率=23.9% 平成27年4月1日以降開始する事業年度で資本金1億円超の企業について)
課税所得 = 税引前当期利益 + 申告調整項目
(加算項目−減算項目)
税法は申告調整項目としてさまざまな項目を規定していますが、ここでは次の項目を紹介します。
(法人税率=23.9% 平成27年4月1日以降開始する事業年度で資本金1億円超の企業について)
課税所得 = 税引前当期利益 + 申告調整項目
(加算項目−減算項目)
(加算項目)
- 1)減価償却費の限度超過額の損金不算入
- 2)引当金の損金不算入
- 3)交際費等の損金不算入 など
(減算項目)
- 4)減価償却費の繰越限度額当期認容
- 5)引当金の当期認容
- 6)欠損金の繰越控除 など
また交際費に関しては、財務会計上の費用として計上されても、税務上の損金として認めないとする税法上の原則規定(例外として特定の場合、損金として認められます)があります。これが交際費等の損金不算入(3)です。このほか、企業の課税所得が最終的にマイナス(欠損金)になった場合は、その後の事業年度において所得が生じても、当該欠損金と相殺し、法人税の一定部分を減じることができます。これが欠損金の繰越控除(6)です。
こうした申告調整項目があるため税引前当期利益と課税所得の金額は必ずしも一致しません。税引前当期利益が黒字でも課税所得がマイナスになり、法人税の納付の必要がない場合もあれば、その逆もあります。とりわけ業績不振などで多額の損失を計上した場合、その後数年、利益計上を継続しているのに、欠損金の繰越控除(6)により、法人税の支払がゼロまたは僅少というケースもあります。
連結決算
上場企業の業績に関するニュースは、通常、当該上場企業単体での決算ではなく、子会社・関係会社を含めた連結決算での業績が報道されます。連結決算とは、財務会計上、企業グループをあたかも1つの企業であるかのように仮定して作成される決算であり、子会社などを保有する上場企業では原則として、その開示が義務づけられています。連結決算は、連結グループ各社の決算数値を単純に合算した値から、連結グループ内の取引を相殺消去して作成されます。単純合算した値からグループ内取引の分だけ売上高や費用が減少するばかりでなく、利益まで減少することがあります。
【親会社にて計上された子会社取引】
A.子会社から仕入〈損益計算書〉 : 35
B.子会社から株式配当受取〈損益計算書〉 : 5
C.子会社へ株式出資〈貸借対照表〉 : 10
【子会社にて計上された親会社との取引】
a.親会社へ売上〈損益計算書〉 : 35
b. 親会社へ株式配当支払〈利益の処分であり、貸借対照表や損益計算書には表れません〉: 5
c.親会社から出資受け入れ〈貸借対照表〉 : 10
親子会社間の取引を相殺消去して連結決算を作成すると次のようになります。
A.子会社から仕入〈損益計算書〉 : 35
B.子会社から株式配当受取〈損益計算書〉 : 5
C.子会社へ株式出資〈貸借対照表〉 : 10
【子会社にて計上された親会社との取引】
a.親会社へ売上〈損益計算書〉 : 35
b. 親会社へ株式配当支払〈利益の処分であり、貸借対照表や損益計算書には表れません〉: 5
c.親会社から出資受け入れ〈貸借対照表〉 : 10
これは連結決算上、親会社が子会社から受け取る配当金は、連結グループ内の資金移動にすぎないため利益を構成せず、子会社が親会社から受け入れた資本金も同様に連結グループ内の資金移動なので純資産にならないためです。
次回は「不正会計の種類と手口」について解説します。
本コラムは2016年6月の『JMAマネジメント』に掲載されたものです。