JMAトップマネジメント研修を活用いただいている、株式会社エラン(プライム上場、本社:長野県松本市)の櫻井会長に、創業時の苦労談や経営の持論についてお話しを伺いました。(株式会社エランのウェブサイト https://www.kkelan.com/

インタビュアー:JMA 曽根原

   

現在の経営体制と役割

現在、私は当社の会長兼CEOを務めており、主に新規事業と海外事業を担当しています。国内事業は峯崎社長が担当しており、コロナ禍を契機に代表取締役2名体制に変更しました。これにより、リスク回避と事業成長を両立させ、特に海外事業ではインドでリネンサプライ事業会社への出資を展開し、順調に成長しています。

創業当時の“苦い思い出”

若いころ、私はオートバイが趣味で、高校生でバイクの免許を取得し、サーキットに通っていました。レーサーになることが夢で、卒業後はホンダのディーラーで働きながらレーサーを目指していました。しかし、21歳のとき、父がガンで余命宣告(半年)を受けました。レーサーとしての夢は費用がかかり、借金と怪我も増えていました。家族からは反対され、レーサーの夢を諦めざるを得ませんでした。夢を失った私は、何か新しい仕事に打ち込むことを決意し、訪問販売業で布団をフルコミッションで販売し始めました。

業績が着実に上昇し、仕事が楽しくなり、会社からの評価も高まり、課長に昇進しました。25歳のとき、組織運営の経験を積む中で、自分で経営をしてみたいと考えるようになり、会社に相談しましたが、「独立を考えている社員はいらない」とクビにされました。突然の出来事に戸惑いましたが、その後、有限会社エランを設立し、自分で布団販売事業を始めました。初めは事業の準備が不十分で苦労しましたが、徐々に会社は成長しました。最初は事業と業務の効率化に焦点を当てていましたが、売上目標を設定し、達成したら社員全員で旅行に行くなど、楽しいことを共有しながら事業を伸ばすことに尽力しました。楽しみを提供することで、業績が着実に上昇しました。

ビジネスモデルの転換とパートナーシップ

28歳のとき、法人格を株式会社に変更し、ビジネスのアプローチを変えました。単なる布団の販売だけでなく、古い布団の回収とリサイクル販売を開始しました。その後、長野県松本市に支店を開設し、リサイクル事業が順調に成長し、業績が向上しました。さらに、ホテルや旅館への営業拡大や、着物のリサイクル事業にも取り組み、事業を拡大しました。同時期に、地元の農協と提携し、販路を大幅に拡大しました。農協の協力を得ることで、営業が劇的に容易になり、病院からも依頼が増えました。社会的に信頼されるパートナーを獲得することで、当社の事業は大きく成長しました。

患者の「困りごと」に着目し主力事業を開発

病院での寝具事業は競争が激化しており、収益性が低かったです。しかし、ある日、病院に入院する患者の個別の課題に気付きました。入院患者は寝間着や着替え、消耗品を持ち込む必要があり、当時は患者やその家族の責任でした。しかし、同時に核家族化が進み、衣類のレンタルやタオルのレンタルの需要も増えていました。このニーズに注目し、現在の主力事業であるCSセットのレンタル事業に進出しました。この事業はまだ誰もが手がけていなかったため、信用と実績を築くのは容易ではありませんでした。病院や行政機関からは当初、協力を得ることが難しく、多くの断られた理由を聞きました。しかし、私たちはそのリストを一つずつ克服していきました。実績のない状態でスタートし、最初は厳しい日々が続きましたが、半年後には着実な実績を積み上げました。顧客を協力者にし、新たな顧客を開拓するために、周囲の人々を巻き込みました。

事業の成長過程で直面する「規模の壁」

創業期には、布団の販売はしばしば「悪徳商売」と非難されましたが、私は常に感謝される仕事を追求しました。会社は成長し、パートナーシップも築き、上場も果たし、理想に近づいてきたと感じています。しかし、組織が30人を超えると、マネジメントが難しくなり、方針や目標の共有が難しくなりました。そのため、初めて「事業計画書」や「行動指針」を導入し、会社の方針と社員の目標を結びつけました。社員の意識と会社の方向性が一致し、事業が成長しました。

組織が100人を超えると、さらに意思疎通が難しくなります。この壁を克服するために、機能的な組織を構築し、上場準備を始めました。上場企業の組織構造を学び、4年後に上場を果たしました(2014年上場)。企業は成長の過程で「規模の壁」に直面します。この壁を乗り越えるには、マネジメントのアプローチを変える必要があります。

トップリーダーに必要な「大きな夢を描く力」

現在、当社の売上は362億円(2022年)ですが、近い将来には1,000億円の壁を乗り越えたいと考えています。大きな飛躍を遂げるには、さらなるステージを見据えることが重要です。また、上場後には予想外の要求が海外投資家から寄せられたこともありましたが、これにチャレンジして応えることで会社は成長し強化されてきました。

経営者は自社の未来のビジョンを持つことが不可欠です。大きな夢を持つことは、会社を成長させる鍵です。「日本だけでなくアジア、その後世界でシェア50%!」という夢が社員にとっては非現実的に見えるかもしれませんが、その夢が会社を前進させる原動力となります。日本の経営者の中には、自分自身で会社の成長レベルを抑える傾向があると感じます。一度売上や利益が伸びると、現状に満足してしまう経営者が多いのです。現状に満足せず、大きな夢を抱いて、社員を鼓舞し続けることをお勧めします。特に、次代を担う若い経営者にエールを送りたいと思います。

以上 (聞き手:JMA曽根原)