次世代経営人材の育成が重要とされている理由

近年は、次世代経営人材の育成が課題となっている企業が増えているようです。経営人材の候補を抜擢し、執行役員や取締役として組織を動かす存在に育て上げるためには、求められる要素や理想像を明確化する必要があります。

今回は、経営人材の育成における課題と求められる資質をふまえた上で、「なぜ今、サクセッションプランが重要とされているのか」について解説します。

次世代の経営人材に関わる課題とは

コロナ禍以降の社会情勢の急激な変化によって、経営人材の育成の難易度が高まっているといわれています。多くの企業が抱える課題のひとつは、将来を見据えた経営戦略やビジネスモデルの構築が進んでいないことです。組織がめざす方向性が曖昧な状態では、次世代の戦略にふさわしい人材を選定できないでしょう。

もうひとつの理由として、経営層の硬直化が挙げられます。独創的なビジネスを創出し、質の高いリノベーションを実現するためには、経営戦略に適応する多様な人材が必要です。ダイバーシティの重要性を理解していながらも、従来と変わらない人材選定から脱却できずにいる企業は少なくないようです。

これら以外にも、「育成プログラムを企画・実施する体制が整備されていない」「重要な領域における候補者不足」などの課題があります。経営人材育成が進まない理由はひとつではなく、さまざまな問題が絡み合っています。企業の基盤を整えつつ、目標にコミットした経営人材の育成を行うことが重要です。

求められる5つの経営者像

理想とされる経営者像は、時代とともに変わります。社会の多様化・グローバル化が進む今、次世代の経営者に求められる資質にはどんなものがあるのでしょうか。

ここでは、日本能率協会がめざす5つの経営者像を紹介します。

社会を変える明確な信念と高い志

企業は経営者の意志の現れです。経営者には、「何が何でも目標を達成する」「わが社が社会を変える」という強い意志や願望、それに伴う精神力が求められます。

たとえ経営環境が悪化しても、優れた経営者は必ず目標を達成します。経営者に確固たる意志がなければ企業の軸がブレてしまい、従業員に熱意を伝えることもできません。使命感を持って真摯に経営に向き合う人こそ、経営者にふさわしいといえるでしょう。

多面的視座と洞察力

あらゆる角度から物事を観察し、本質を見抜く力がある経営者には、先見性があります。自らの立ち位置からの景色に固執すると、ユーザーニーズを把握できなくなります。不確実性が高い時代には、顧客、担当者、取引相手など、さまざまな立場から状況を捉える多面的視座が求められます。

さらに、表面的な事象から物事を判断せず、本質を見極める洞察力も必要です。現状をフラットに把握したうえで、将来起こりえることを読み取る洞察力が高いほど、適切かつ迅速な意思決定が可能になります。

人間的魅力と倫理観

経営者には、リーダーとして尊敬される人間的な資質も必要です。「この人の下で働きたい」「この人のためにも頑張ろう」と、社員の内発的動機を生み出す魅力のある経営者のもとには、優秀な人材が集まります。

人間的魅力には、経営者の生きざまや言動が大きく影響します。マネジメント力はもちろん、モラルや胆力など、幅広い観点から自己研鑽に取り組む必要があるでしょう。

組織を率いる指導力の発揮

経営者には、社員一人ひとりのパフォーマンスを最大限に発揮させつつ、目標達成へ向かう指導力が欠かせません。多様な価値観を持つ社員をまとめ上げながら、組織全体をめざす方向へ導いていくためには、強い責任感や決断力が必要です。

指導力は、リーダーシップの重要な要素の1つです。社員の能力や状況に合わせてサポートする、自らが模範となるなど、率先した行動が求められます。

未踏課題の創造的克服への挑戦

経営者には、ときに大胆な決断を下すべきときがあります。未踏の課題にも臆せず、自らリスクを取りながら果敢に挑戦していく中で、活路が開かれることもあるでしょう。

大胆な行動を取る場合は、繊細な気配りと緻密な計算も合わせ持たなければなりません。逆に、細心になりすぎて行動に踏み切れなければ、時代に取り残されてしまいます。

過去に事例がない課題を乗り越えるのは、当然ながら困難なことです。ここでも経営者としての気概や粘り強さが試されます。自らチャンスを掴んでいけるリーダーこそ、改革を引き起こす経営者です。

サクセッションプランは今や必要不可欠

近年になって、サクセッションプランの重要度が高まっています。きっかけとなったのは、2018年6月のコーポレートガバナンス・コードの改訂です。4章の「取締役会等の責務」の補充原則と、経済産業省が公表している「コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針(CGSガイドライン)」において、以下のような強い要請が記載されています。

「取締役会は、会社の目指すところ(経営理念等)や具体的な経営戦略を踏まえ、最高経営責任者(CEO)等の後継者計画(プランニング)の策定・運用に主体的に関与するとともに、後継者候補の育成が十分な時間と資源をかけて計画的に行われていくよう、適切に監督を行うべきである。」(コーポレートガバナンス・コード 補充原則4-1(3))

「経営トップの交代と後継者の指名は、企業価値を大きく左右する重要な意思決定であることを踏まえて、優れた後継者に対して最適なタイミングでなされることを確保するため、十分な時間と資源をかけて後継者計画に取り組むことを検討すべきである。」(コーポレート・ガバナンス・システムに関する実務指針4.1.1. 社長・CEOの指名と後継者計画)

コーポレートガバナンス・コードもCGSガイドラインも、取締役会が次期経営人材育成の計画・運用を主導すべきとしています。明確な基準と客観的評価によって後継者候補を選定し、研修やトレーニングを活用しながら知識とマインドを高め、しかるべきタイミングで後継者を指名することが求められます。

重要なのは、客観性と透明性です。社長やCEOが独断で決定し、取締役会が追認するという従来の手続きでは、ステークホルダーの納得を得られない時代が到来しています。経営課題が複雑化・多様化しているなかで、経営人材をいち早く見定め、育成するプロセスの明確化は急務といえます。

対応が遅れている企業は、早期に着手を

「日本能率協会がトップマネジメント研修受講者に対して行った『トップマネジメント意識調査2022』によると、現在の役職への就任を打診された時点で「準備ができていた」割合は4割にとどまりました。また、これまでに経営者となるためのトレーニングを「受けていない」と回答した割合も6割を超える結果となりました。
対応が遅れている企業は、早期に着手すべきでしょう。

多くの企業にとって喫緊の課題となりつつあるサクセッションプラン。「ミッション、ビジョン、経営戦略の明確化」「人材を育成する組織の強化」「必要な人材の定義」…今こそ、経営者と取締役会の迅速な判断とやり切る覚悟が問われています。