経営人材278人に聞いた「これからの経営陣に求められる資質と自身の課題」

経営者に求められる条件や、指針となるテーマを明らかにすることを目的に、日本能率協会が毎年実施している「トップマネジメント意識調査」(2022年12月発表)。2022年度版の調査結果から見えてきたのは、これからの経営者に求められている“資質”と経営者自身が自覚している“強み”との乖離です。

この記事では、「トップマネジメント意識調査2022」の調査結果から、その原因や現状を把握し、ギャップを埋めるために必要なアクションを考えます。

現代の経営者に最も求められる資質は「本質を見抜く力」

「トップマネジメント意識調査2022」調査概要
  • 事調査期間

    2022年7月14日(木)〜10月26日(水)

  • 調査対象

    上記期間内に開催したJMAトップマネジメント研修の受講者

  • 回答数

    278名

調査の冒頭の質問は、「これからの経営者に求められる資質」です。想定される回答として28項目を提示し、「特に重要だと思うもの」と、回答した経営者にとって「自身の強みであると思われるもの」につき、それぞれ3つずつ選択していただきました。

その結果、最も重要であると思われる資質の1位は「本質を見抜く力」(41.4%)、2位が「変化への柔軟性」(37.4%)、3位が「イノベーションの気概」(24.8%)となりました。 
「本質を見抜いて変化に柔軟に対応し、イノベーションを起こす気概を持っている」
――そんな経営者像が浮かんできます。

一層の不確実性を帯び変化予測困難のな時代、経営者のこうした資質の有無は、会社の生き残りを左右する可能性があります。ところが、さらなる 次の設問で、これらの資質を持っていると自覚する経営者の割合が低いことが明らかになりました。

1位の「本質を見抜く力」は22.7ポイント差、3位の「イノベーションの気概」は15.4ポイント差。5位の「ビジョンを掲げる力」も14.4ポイント差と、上位項目ほど実際にその要素を“持っている”経営者の割合が低いのです。

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日本の経営者が培ってきたキャリアは、現在のビジネスで重要とされる資質を養うに、必ずしも十分ではないことが今回の調査で見えてきました。
そしてこの乖離を埋めることが、多くの経営者にとって早急に取り組むべき課題となってくるでしょう。

リーダーシップだけでは務まらない経営者の仕事

必要な資質を養うためには、関連する知識やスキルを身につけることも重要です。そこで本調査では、前項と同様に、経営者に必要な知識やスキルとして、「既に身につけているもの」と、「もっと身につけておけばよかったもの」についても挙げていただいています。

その結果、既に身につけている知識・スキルは、「リーダーシップに関するスキル」が1位で、以下「プレゼンテーションスキル」「コーチングスキル」と続きます。一方、もっと身につけておけばよかった知識・スキルは、1位が「会社法・税法などに関する法律知識」(71.6%)、2位は「財務・会計に関する知識」(69.1%)。以下「外国語によるコミュニケーション能力」「ITに関する知識・スキル」「経営戦略に関する知識」となっています。

リーダーが経営者になるまでに新任役員がこれまでに培い、身につけてきた知識やスキルは、部門でリーダーシップを発揮するために培ってきた知識やスキルといってもいいえるでしょう。この結果は、経営者に求められる知識やスキルは、これまでの部門(部分)最適が今まで とは確実に異なること、そして多くの経営者がそれを実感していることを物語っています。

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さらに「経営者になるための準備ができていた」と回答した経営者は40.6%と4割に留まり、逆に「準備ができていなかった」と回答した経営者は34.5%と3割を超えています。

こうした点からも、経営者や役員、経営幹部候補を計画的に育成し、現代、そしてこれからの時代の経営者・役員・幹部として必須の経営知識をあらかじめ、それも早い段階で習得できる機会を用意することが、企業にとって非常に重要であることがわかります。

「経営者になるためのトレーニングを受けていない」が実に6割

コーポレートガバナンス・コードにおいて、スキルマトリックスの開示や役員を対象としたトレーニングの機会の提供が要請されています。現在は上場企業が対象とされていますが、中堅・中小企業の経営者も、中長期的な企業価値や企業力を高めるために、その必要性を実感していると思われます。

そんななかで、「経営者になるための準備ができていなかった」とする経営者の比率と呼応するように、「これまで経営者になるためのトレーニングを受けてこなかった」という回答が6割以上にも達しています。
経営環境がめまぐるしく変化している今、不安が拭えないのもうなずけます。

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さらに、日本産業界ならびに自社の国際競争力・持続的成長に対する自信について問うと、「自信がある」との回答は、自社の競争力や成長については14.1%、日本の産業界全体は10.1%。「不安がある」という答えは、自社が57.8%、日本の産業界に対しては90.0%を占めています。

しかしながら企業が取り組むべき課題は山積しています。今回の調査にご協力いただいたみなさんも、「今後の経営戦略に影響すると想定される項目」として、「DXの推進」「人的資本経営の推進」「テクノロジー同項の把握と対処」「気候変動や環境問題への対処」「イノベーションの推進」などを次々と挙げています。

これら5項目は、日本産業界の持続的な成長のためにも、個々の企業の競争力を向上させるためにも、外せない課題といえます。「大いに関心がある」「関心がある」「やや関心がある」までの回答をすべて合計すると、いずれも95%以上の経営者が関心を寄せています。

経営幹部の計画的な育成と資質獲得機会の確保が急務

最後に、「卓越した経営者であると思われる人物」を挙げていただきました。1位が稲盛和夫氏、2位松下幸之助氏、3位本田宗一郎氏、4位にスティーブ・ジョブズ氏と、錚々たる顔ぶれが並んでいます。冒頭にお伝えした「これからの経営者に求められる資質」を持ち合わせた人物と、卓越した経営者の姿には、少なからず重なる部分が見出せるものと思われます。

先人に学ぶという意味合いも含め、経営者、経営幹部、そして未来の経営者候補が、自らの資質を磨くために学ぶ機会を持つことは、今後ますます必要になってくるはずです。

準備できていますか?役員を対象にした研修・トレーニング機会の提供

経営環境が大きく変化する時代にあって、企業の競争力を維持・向上し、持続的な価値創出を実現していくうえで、経営者・役員が果たすべき役割は、ますます重要となっています。

さらに、上場企業にとっては、「コーポレートガバンス・コード」において、役員を対象にした研修・トレーニングの機会を提供することが要請されるとともに、各取締役の知識・経験・能力等を一覧化したいわゆるスキルマトリックスの開示が求められ、役員研修の実施が不可欠となっています。

このような状況も踏まえ、今回ご紹介した「トップマネジメント意識調査」を読み解きながら、役員が必要としている研修・トレーニング、またすでに実施している企業の他社事例をご紹介している動画を公開中です。

無料で視聴可能ですので、少しでも興味のある方は、ぜひご覧ください。
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