石井 美和 氏

TOTO株式会社 人財本部 経営塾 塾長
石井 美和 氏

派遣責任者様

インタビュアー:一般社団法人日本能率協会 丸尾(JMA)

TOTO株式会社 経営塾塾長の石井美和様に、役員育成のあり方や考え方、TOTO様独自の「経営塾」に加え、JMAトップマネジメント研修プログラム「新任執行役員セミナー」を選び続けて頂いている経緯などお話を伺いました。また、自社のセミナー派遣を見直しを行う際に、他社の研修ご担当者様にヒアリングされたお話もご紹介いただき、研修に必要な要素をどのように考えるかお話いただきました。(※敬称略)

役員に必要な3つのマインドセットとは?

(JMA) 貴社は「今年度の役員研修の派遣を、いかにすべきか」ご検討され、最終的に押さえるべき方向性を決めたと伺いましたが、ご検討の経緯などお話いただけますか?
(石井) 経営塾は「将来の経営幹部」候補生育成を狙いとし研修企画を行っており、役員就任後の育成は日本能率協会(JMA)の「新任執行役員セミナー」に参加させていただいております。
15年度も参加を検討していたところ、日程調整が上手くいかず社内でこの機会にセミナー派遣の狙いを改めて見直す話が持ち上がりました。
そこで、他社の研修状況を調査することになり5社ぐらいの会社を訪問してみました。
訪問してわかったことが、人材育成の主は社員層であり、役員層に特化して研修を行う傾向はありませんでした。
その中でも、A社では、経営哲学的なところを強化する目的をお持ちでしたが、研修派遣先は幅広い選択肢から選ぶと言ったものではなく、トップダウンで決定しているとのことでした。
それ以外は、コーポレートガバナンスコードが6月に施行されたこともあり、その認識を強化させるために、マインドセットを目的とした研修はされているということでした。
更にお聞きしたところ、実学的なものも含めた経営哲学は研修課や人材開発部門が、経営者としてのマインドセットは秘書室や経営企画の両者で行っているという話をお聞きすることができました。
またA社からお聞きした育成の切り口で他社にもお聞きしたところ、他社人事部門では新任経営幹部には経営哲学やリテラシーは行っていませんでした。どちらかと言えば社内の取締役や経理担当・人事担当がコーポレートガバナンス等を講話形式で行い、マインドセットと意識改革を行っているということでした。
一方経営幹部候補を育成している「経営塾」の中では、実学から経営者としての経営哲学、経営思想というところまで、プログラムを実施しています。また社内で次期経営幹部の育成をどのように捉えているかと言いますと、経営幹部候補として部門ローテーションを積極的に行い、幅広い職務経験の中で多様な視点を獲得し能力を磨くことを進めています。その中で経営思想や経営哲学も併せて構築することとしています。
その意味も含め、該当者は例年多数ではありませんので社内で行うには非効率的ではあるかもしれません。ですので外部に研修派遣させることは1つの手段だと思います。
そこでJMAでは新任執行役員セミナーにこのような要素も含まれているかお聞きしたところ「広い意味では含まれている。かつプラスアルファとして戦略的、リテラシー的要素があり、経営思想の要素も織り交ぜながらやっている」とのことでしたので、JMAの新任執行役員セミナーに派遣する結論となりました。
他社研修会社のセミナーもいろいろ調べてみましたが、予算、日程、日数、参加企業等を比較検討しJMAに決定しました。
(JMA) ありがとうございます。
JMAのセミナーは、役員や経営幹部の方たちに押さえてもらいたい要素をおさえるよう内容を吟味しています。1つ1つ細かくしていくと、例えば、役割の認識、役員に必要なマインドセット、変革に対しての意識、経営哲学、後はリベラルアーツも入ってきます。そのほかに経営観の醸成が入ります。
(石井) そういったプログラムの狙いが一致して決めさせていただきました。
弊社では経営幹部育成のサクセッションスキーム「NEXT制度」があります。経営幹部候補を全社人財より階層別に選抜し“見える化”し、役員間で共有化します。また段階に応じた教育と実践の場を計画的に提供する育成の場として我々経営塾が存在します。並行して育成的配置を行い修羅場を通じタフネスを養い、役員へ本格登用を行い、サクセッションスキームとしては体系化されています。ただし計画的育成配置でどのような経験をさせることがベストなのかは都度議論をしていく必要はあるとは思います。

20年後の未来を見つめる目とは?

(JMA) 石井さんの肌感覚的に、足りていない部分もあると思われていますか。もしあれば、それはどういうところなのでしょうか?
(石井) 計画的配置は、「何処に行くのか」よりも「どのような経験が必要か」が重要です。そこの認識は、若いうちでは技術職、営業職と言った職種で違ってきます。世の中にはπ型人材、T型人材と言った育成のプロセスが違うという考えもあるようですので。ですから計画的配置でどのような経験をさせることがベストなのかは経営陣と都度議論をしていく必要があると感じています。
(JMA) お聞きしている限りでは、非常に合理的なプロセスに思えます。学習することと、それを実践して、実際の現場で試し、血となり肉となりというのを経て、次のステップに進んでいるので、非常に理想的な流れではないかと感じました。
(石井) ですが、実際の現場での経験も重要ですが、経営者は10年後、20年後の未来に対する問題意識への備えは必要だと思います。
そのため、我々経営塾で受講生の志醸成の一つとして、10年後、20年後は自分達が経営者になる年齢である為、自分たちの未来は自分たちで作らなければいけないと伝えています。その意味で、以前より経営塾ミドルクラスで指導してくださる外部講師は実務家ベンチャーキャピタリストの方を招聘し彼の多様な視点、既成概念を打破する好奇心で受講生を大いに刺激をしてもらっています。外部講師が受講生に対し、いつもおっしゃるのは「自分たちがどうありたいか」というテーマをしっかりと考えなさいということです
例えば、メインプログラムであるアクションラーニングでは、最後に役員にテーマ提言を行いますが、本来は褒められるようなテーマにしたいという意識が働きます。ですが、講師は「いつもそれはちがう」とおっしゃるのです。
(JMA) なるほど、受講生の心理をとらえていますね。
(石井) そうなんです。既存の価値観を破ることは大変ですよ。
(JMA) 石井さん自身は、価値観を破って突破ができる感じがしますか?
(石井) 既存の価値観打破については、自分が大事だと思ったら突破していかなければなりません。でも、どうすればいいのかという正解はないです。
例えば、1つこんな事例がありました。受講生と未来の課題について話をしました。
受講生は、未来のイメージが掴めず、バックキャスティングができないでいました。そのまま提言すると、未来については誰も限られた情報の中から判断しますから、役員も受講生もその少ない情報で自分の過去の経験を前提に、駄目か良いかを判断するしかないのです。
だから、未来の話は、正解がないのです。
はっきりわかっているのは、正解はないことですから、いかに過去の情報、世の中のうねりといった色々な情報を組み合わせて、未来を洞察する力で正解を見出していくかが重要です。未来の話は自分たちで正解にするまで作っていくのだと思います。
(JMA) 正解、不正解は、どこで切って判断するかにもよりますよね。
最終的に後から見たら正解だともてはやされる事例でも、話を聞くと失敗とみられる時期を乗り切り、信念を持ってやり続けたからというのもよくありますよね。
正解になるまでやり続けるから正解になるんだ、と経営者の方が講演でおっしゃっていたことがあります。

役員プログラムに必要な要素とは何か?

(JMA) 話は変わりますが、2012年からJMAのプログラムに、その年の対象である役員の方々にご参加をいただいています。
石井さんがとらえている皆さんの声、参加してどうだったかという感触、経営塾で狙っているところ・期待しているところと合致しているかなど、お感じになっていることをお話ししていただけませんか?
(石井) 参加されている方は、実学、体現の期間も含めて、自分なりの軸は作っておられる方々ですので、その軸をさらに固めるために経営講話を聞くのは、とても効果的なようです。
実学に近いものに関しては、本人のレベル差があるので、改めて勉強になった方、もう必要はないという方に分かれます。
例えば、リーダーシップ理論のような話は現場で体感、体現していますので、彼らとしては「もう理解している」ということになるのかもしれません。
(JMA) 石井さんたちがアレンジされるプログラムの中に、経営者講演のようなものを入れるケースはありますか?
(石井) はい、ほとんど階層別コースに入れています。
30代のコース、40代前後のコース、シニアクラスのコースがあり、そのコース全て弊社の社長と副社長の講話があります。講話の要素は2つあり、経営者の方々には経営者としての思想、会社の生い立ちも含めながら経営者たる人材とは何かのような話をしていただいています。副社長に関しては、ご管掌部門の歴史から現在・未来の戦略についてもお話していただき、受講生にとって会社の仕組み、会社の立ち位置も理解できるようお願いしています。
また、今はグローバル視点にも力を入れているので、国際部門をご管掌している取締役の方に、人間力についての話をしていただきながら、海外での実情を話していただくというものもあります。
また経営者に求められるものとして最近特に重要視しているのが、ポジションテイキングという意思決定です。意思決定というのはとても大切であると考えています。先ほどの正解、不正解はないですから、自分たちが正しいと思ったものを、人がそう思い、最終的にはそう思ってもらって人が動いてくれる。そういう課題を見つけ出して、それに対してビジョンを作っていくことが重要だと思っています。
ですから、こういった経営哲学講話は研修の全コースに入れるようにしています。
(JMA) プログラムの中にそういった時間があることが有効と、お考えになっているということですね。
(石井) もちろんそう思います。実学はケーススタディーなどをやればいいのですが、講話では経営者の思想、哲学、意思決定の拠り所は実学では学べませんので、疑似体験できるようなお話を聞くというのは大切だと思います。
次へ続く