平岩 光現 氏

株式会社ジェイコム埼玉・東日本  代表取締役社長 
平岩 光現 氏

日本能率協会は1982年から、トップマネジメント層の経営力向上に貢献するべく、「トップマネジメント研修」を開催しています。
今回はこれまで数多くの執行役員の方々にご参加いただいた「新任執行役員セミナー」について、昨年度にご参加いただいた株式会社ジェイコム埼玉・東日本 代表取締役社長 平岩 光現 氏に研修の感想を伺いました。インタビュアーは日本能率協会の勝田が務めました。(本文中敬称略)

会社の成長を再び軌道に乗せるための新たな学び

(勝田) 平岩さんの現在の立場とお仕事内容について教えてください
(平岩) JCOM株式会社 の執行役員と連結子会社の株式会社ジェイコム埼玉・東日本 の代表取締役社長を兼任しています。埼玉・群馬・仙台などにある エリア内の11の拠点を運営するのが主な役割です。
(勝田) 第89回新任執行役員セミナーにご参加いただきありがとうございました。参加しようと思われたきっかけや、参加を決められた経緯についてお聞かせください。
(平岩) 当社は1995年に設立してまだ社齢30年に満たない会社ではありますが、かなりの急成長を遂げてきたという自負があります。ただここ10年ほどは、明らかに成長スピードが鈍化している状況です。その状況を受け既存の事業に加え、新しいことをしっかり学び直していく、積極的に新しいものを取り入れてまた成長させていく、という指針を全社で掲げています。そういった学び直しの一環として今回執行役員セミナーに参加することにしました。
(勝田) 新任執行役員セミナーの内容にはどのような印象を持たれましたか?
(平岩) 執行役員向けの研修なので、経営層としての知識やノウハウといったテクニカルな部分のウェイトが大きいのかなと想像していました。しかし実際の研修では、執行役員として必要な覚悟など、意識面に も重きがおかれているように感じました。
講師の方々が各々違った表現で「テクニカルな部分以前に、執行役員として重責を担っていく覚悟が必要なんだ」というマインド面を強調されていました。 執行役員としての自分を支える根の部分を強く持つのが大切で、まずマインドセットができていないといくら知識やノウハウを得ても、実践につながらないということだと思います。研修全体を通して強く印象付けられました。

自分のマネジメントを考えさせられた講師のお話

(勝田) 3日間さまざま講師の方々が登壇されました。特に印象的だった方や、教わった内容についてお聞かせください。
(平岩) 一番印象に残ったのは、TDK株式会社取締役会長の石黒成直さんです。「スピードが大事」というお話しでした。社内で商品開発を進める際などにスピードが落ちてしまう要因はさまざまありますが、中でも日本の企業にありがちなのが「100%の精度をこだわりすぎる」ことだと。80%の精度で一旦進めれば半分の時間で進められるのに、倍の時間をかけて残りの20%を埋めようとする。完成度へのこだわりのために、適切なタイミングを逃してしまうのはもったいないし、時間と労力を継ぎ込んで完成させた20%は過大なスペックであることも多い。このお話を聞いて、「自分も過剰な精度を求めていたかもしれない」と気づきました。当然スピードが重要だという意識はありましたが、「失敗しない」「完全なもの」を求めて遅れを招くようなマネジメントをしてきたのではないかと思い返しています。もうお1人、面白さで印象に残っているのが株式会社エミネクロス代表スポーツドクターの辻秀一さんです。チームのマネジメントについてのお話で、全体のコンディションを上げていく重要性を強調されていました。私も営業では、チームで成功を目指すのが大切だと考えています。社内では「グッドじゃなくてウェルを目指そう」とスローガンを掲げているのですが、辻さんがおっしゃっていた「自分を『ごきげん』にする」ことはまさにウェルな状態で仕事を進めていくことにつながると思いました。実際の業務姿勢に通じる部分が大きく、ぜひ取り入れて行きたいと感じました。
(勝田) 同じ執行役員というポジションにいる多くの方々と交流する時間があったかと思います。研修中の出会いや学び、気づきについてお聞かせください。
(平岩) 当社は地域ごとの特性にあわせ、地元のステークホルダーの方々との関係性を重視しながら日々業務を進めています。そのため、地域の関係者、地元の経営者の方とお会いするケースはこれまでにも多々ありました。今回の研修では、これまで接する機会の少なかった 大規模な企業の執行役員の方々とコミュニケーションを持つことができました。とても貴重な機会だったなと感じています。執行役員は経営と実務の狭間にいるような存在で、実務上の責任をしっかり果たしながら 、一方で全体のことも考えないといけない。そんな部分で皆さん、とても苦労されてるんだな、というのを肌で感じました。
社齢50年、100年といった歴史のある大きな会社の方が多く、 弊社のような若い会社とは違う部分もありますが、 さまざまな壁がある中で、どのように自分の役割を果たしていくか…リアルなお話を聞ける機会はなかなかないので面白かったです。
平岩 光現

社員の意見から新しいサービスをつくる風土醸成

(勝田) 研修を終え、執行役員として「今後自社をこうしていきたい」というビジョンはありますか?
(平岩) 当社は今、転換期を迎えていると感じています。必要なのは新しいチャレンジです。既存の領域の拡大、成長を疎かにするわけではありませんが、それだけでは会社として求めるものが十全に得られません。研修を受け、新しい領域にチャレンジしていくにあたり失敗を恐れずにやっていこうという決意が固まりました。研修を受ける前から、私の管轄であるジェイコム埼玉・東日本でできることはどんどん進め、さまざまな独自の取り組み をしようとしていた所でしたが、さらに取り組みを すすめていこうと考えています。施策を進める上で大事にしたいのが、やはりスピードですね。当然リスクは最小化したい。しかし、過度な精度を求めてスピードを鈍化させるのは本当によくない。この塩梅は難しいですが、大切にすべきポイントです。実際、社内に戻ってスピードと精度の話を共有すると、皆思う所があったという反応でした。スピードを上げろと言いながら、精度100%を求めるのは正しくない。重要なところを押さえたうえで、80%でまずはスタートする。そうして走りながら、20%の中に必要なものがあれば修正していく、という方針を意識しています。
(勝田) 研修での学びを受けて、社内の空気を変革している最中ということでしょうか。
(平岩) そうですね。今までは、「新規のサービスを考えるのは本社。自分たちはできたものを形にしていく」というスタンスでした。そうではなく、自分たちで考えようという意識への転換が必要なんです。考えなければ、気づきもありませんからね。
お客様が何に困っているか、一番敏感に感じられるのは現場の営業やアフターサポートを担当する社員です。どうしたらお客様の課題を解決しながら、会社としても利益をあげられるのかを考えて欲しい。その流れで社内で意見を募集したら、なんと150件も集まりました。実現できそうなアイデアも多く、若い社員たちのポテンシャルを感じましたね。役員クラスになると、昔の成功体験にとらわれてしまう部分もありますので。当社は従来、いわゆるサブスクのようなストックの商売を主力にしてきました。しかし、お客様は放送通信以外でもさまざまな消費をされています。その消費の中から、今までの領域に縛られ過ぎず、ビジネスチャンスを見出していきたいです。 現状維持では将来的に事業が伸び悩む、ということを従業員に伝えるのにはリスクもあります。「会社は大丈夫なのか?」と不安に思う社員もいるでしょう。しかし、だからこそ恐れずに伝え理解を促していきたいです。我々はもっと成長していきたい。しかし、今やっていることだけでは足りないとはっきり見せる。足りない部分のギャップを埋める手段は、決してリストラや費用削減ではなく新しいチャレンジだ、としっかり理解してもらう。そうして皆をいい方向に向けていきたいと考えています。

3日間を投じるからこそ得られる学び

(勝田) 最後に、新任執行役員セミナーへの参加を検討されている方へ向けてメッセージをお願いします。
(平岩) 執行役員になられた方は、皆さんとても努力をしてポジションにつかれた方だと思います。そこに至る自分の成功体験、つかんだノウハウはもちろん大事な財産です。
一方で、自分と近いポジションで活躍する異業種の方と交流してこそ得られるもの、講師の方々から新たな刺激を受けて気づくこともあると思います。このセミナーは、私にとってとても得難い機会になりました。ずっと悩んでいたことも「それでいいんだ」と思えた部分もありました。正直に言いますと、受講する前は「二泊三日の拘束時間は長いな」思っていました。実際は、終わってみるとちょうどよかった。一泊二日では恐らく消化不良で終わったんじゃないかな、と感じています。大変そうだと思って躊躇している方も、ぜひ思い切って濃密な3日間へ飛び込んでみて下さい。