地震や豪雨のような自然災害のみならず、システム障害や情報漏洩などの事件・事故、ウイルス感染症の蔓延など、企業の経営を大きく左右する緊急事態は数多く想定されます。2022年に勃発したロシアによるウクライナ侵攻によって、多くの企業が原料の高騰などの影響を受け、自社事業の運営を見直す必要に迫られました。
こうした緊急事態が発生しても、会社の損害を最小限に抑え、事業の継続や早期の復旧をはかるための方針や計画のことを「BCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)」といいます。不確実性が高く、未来予測が難しいといわれている時代において、経営者や役員に求められるのは、リスク管理の一環であるBCPをふまえた意思決定です。
この記事では、BCP策定に必要な視点と知っておきたい事柄を、策定フローとともにお伝えします。
こうした緊急事態が発生しても、会社の損害を最小限に抑え、事業の継続や早期の復旧をはかるための方針や計画のことを「BCP(Business Continuity Plan=事業継続計画)」といいます。不確実性が高く、未来予測が難しいといわれている時代において、経営者や役員に求められるのは、リスク管理の一環であるBCPをふまえた意思決定です。
この記事では、BCP策定に必要な視点と知っておきたい事柄を、策定フローとともにお伝えします。
BCPを策定するメリットと重要度が高まる背景
BCPの重要性は、10年以上前から指摘されてきました。内閣府は2005年に「事業継続ガイドライン ―あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応―」を公表し、BCP策定を強く推奨しています。その後、2011年の東日本大震災や、近年の新型コロナウイルスの感染拡大などによって、BCPの注目度がますます高まっています。BCPがいわゆる防災対策と異なるのは、策定の主眼が“事業の継続”にあることです。
不測の事態、緊急事態に直面しても事業を継続できれば、顧客との関係を維持することができます。あるいは中断を余儀なくされたとしても、早期に復旧を図れれば、売上・利益の損失を最小限に抑えられます。BCPの有無は、当年度の事業の成果を左右するだけでなく、マーケットにおけるポジションや将来的な事業計画にも影響を及ぼします。
BCP策定のフローとポイント
ここからは、BCPを策定するフローを見ていきましょう。それぞれのステップがなぜ必要なのかを理解しながら策定することが、実効性の高いプランにつながります。 1)BCP策定の目的を明確にし、方針を立てる 具体的なプランニングの前に考えたいのが、BCPの基本方針です。「どのような状況になっても人命は最優先する」「特定の社会的責任は必ず果たす」など、最低限実現すべき事柄を決めておく必要があります。基本方針はBCP策定の大前提となるので、取締役会で決定すべきでしょう。自社の経営理念やミッション・ビジョンに立ち返り、会社として何を守るべきか、何のためにその事業を継続するのかを明確にすると、基本方針の骨格が見えてきます。 2)事業・組織の優先順位をつける 基本方針が決まったら、体制を構築してBCPの策定に着手します。複数の部門に関わる場合は、横断するプロジェクトを編成して進める企業が多いようです。
まず取り組むべきは、会社にとって最も重要な事業・組織を明らかにすることです。目安として、通常の3割程度のリソースしかなくなってしまった場合を想定し、継続すべきものを洗い出します。売上が大きい事業、納期遅延の損害が甚大なサービス、社会的信頼の獲得に不可欠な組織など、基本方針で明確にした「会社として守るべきもの」を基準に具体化していきます。 3)すべてのリスクを評価し分析する 自社にとって「起きたら困ること」、つまり事業の継続を脅かすリスクを知ることが、BCPの実効性につながります。起こる可能性のあるリスクをすべて洗い出し、それぞれについて、発生の可能性と影響度を定量的・定性的に評価します。
さらに、そのなかでも優先的に対応すべきリスクを順位付けし、それらが発生した場合の経営資源やその調達先、インフラ、顧客等に及ぶ影響や被害を分析します。できるだけ詳細に分析して言語化すると、リアリティのある対応策が導き出せるようになります。 4)事前対策と具体的な施策を決める ここからは、事業ごとに業務を洗い出し、何をどのように対応していくのか決めていきます。資金、人的資源、施設・設備、指示系統、情報資産といった5つの観点から考えると、抜け漏れを防ぐことができます。なかでも重要なのは、責任者、推進担当、実行者など、指揮命令系統と役割を明確にしておくこと。責任の所在やマネジメントラインがはっきりしていなければ、とっさの対応ができなくなる場合があります。
計画の段階で、万が一に備えて対策しておくべきことも洗い出し、早期に実行できれば万全です。 5)マネジメント体制を確立し、PCDAをまわす BCPは、策定がゴールではありません。内容が古くなったり、不備に気づかなかったりして、いざという時に機能しなかったという事例もあります。自社を取り巻く状況とリスクの変化、事業の成長、組織の変容などに応じて、継続的に改善を続けていくことが極めて重要です。加えて、定期的に従業員に研修を実施するなどで、リスク管理への意識を高めておくのも有効な施策のひとつです。
BCPとデジタルトランスフォーメーション(DX)の関連性
新型コロナウイルスの感染拡大が起こったとき、テレワークやクラウドサービスの導入など、多くの企業が事業への影響を最小限に留める努力を行いました。このことからもわかるように、事業継続とDXは、その実行プロセスも含め関連性が高い取り組みです。対外的にはデジタル技術を用いた安定性、利便性が高いサービス、社内では業務効率化やコスト削減を実現するDXと、さまざまなリスクの影響を緩和して事業を継続するためのBCP。どちらも、デジタル技術を用いてサービスの価値と継続性を高める重要な経営課題といっていいでしょう。しかし、デジタル化の推進には情報漏洩やサイバー攻撃、アクセス障害といった事業継続を危うくするリスクが伴うことも見逃せない事実です。だからといってDXに後ろ向きになるのではなく、メリットとリスクを十分に考慮したうえで事業の継続性を確保する。そうした柔軟な考え方が、これからの経営者には求められるようになります。
長期的な戦略の構築と状況に応じた意思決定が重要
時代の変化とともに、ますますその重要性が増しているBCP。その手法や考え方はひとつだけではなく、「これが正解」というものでもありません。まずは着手して試行錯誤を重ね、自社の現状と将来にフィットするプランを継続的に設計していく必要があります。これからの経営者と役員には、チャンスとリスクを多面的に捉え、状況に応じて適切な意思決定をする決断力と、長期的な視点で戦略を構築する力が求められます。自己研鑽を深め、戦略的に物事を考える力を養っていくことが肝要です。