金井誠太氏
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マツダ株式会社 代表取締役会長 金井誠太氏に、ご自身が役員になられた当時の思いや、社員に対し夢を与えることの重要性など、経営者としての必要なマインドについてお伺いいたしました。

インタビュアー:一般社団法人日本能率協会 井上

執行役員の3つの不安とは?

(井上) 経営者講演が終わったわけですが、対談も含めて受講者の反応はいかがでしたか?
(金井会長) 寝ている方はいらっしゃらなかったので安心しました。
(井上) まさに金井会長も13、14年前に執行役員になられましたが、執行役員になるという時の、金井会長ご自身の思いというのを振り返っていただきますと、当時の心境はいかがでしたか?
(金井会長) あれは、53歳の時になったから、12年前になります。
あのときは、広島からこちらの研修に出て、周りには同じような境遇のいろいろな会社の方がいらして、そういう方と議論を交わすことは、結構、面白かったですね。
(井上) 連帯する意識がおありになったのですか?
(金井会長) ありましたね。
(井上) 今日の講演では、3つの不安というお話しがありましたが、金井会長ご自身としては執行役員になられた当時、そういった気持ちはございましたか?
(金井会長) それは、ないですね。
(井上) そこは、すでに執行役員として確固たるお考えがあったのでしょうか?
(金井会長) 鈍いせいかもしれませんが、地位、肩書が変わりましたが、やる仕事がそこから一気に変わったわけではありません。
仕事の高さと広がりでいうと、広がりは今までと同じままで、高さが変わったと思います。
今までとは違う部門への異動や、次からより広いものを見るように言われたわけではございませんでした。
何が違うのだろうと。普通の本部長と執行役員とでは、何が違うのだろうかということは、常に自問自答したり、議論をしたりしていました。今までよりもっと責任が重くなるとか様々なことを考えていました。

座右の書から感じることとは?

(井上) 先ほどご講演の前にうかがった際に、本をかなり読まれるという話をおうかがいしたのですが。
(金井会長) 読書が好きなのです。
(井上) そうなのですか。
金井会長の好きな言葉に、西郷隆盛さんの敬天愛人という言葉があると聞いています。
もし、座右の書を挙げるとしたら、どんな本ですか?
(金井会長) なんでしょうねえ。「坂の上の雲」かなあ。
私は、ああいうのが好きなんです。
明治維新とか、戦国とか。中国の三国志、あれも大好きです。
(井上) 共通するのは激変して行く時代ですね。
苦しい時代と希望に満ちた時代。
マツダさんの環境と相通ずるような感じがしますね。
(金井会長) どうでしょうか。
浅田次郎が書いている輪違屋糸里。あれの新撰組三部作がありますよね。あれが大好きなのです。
(井上) どういうところがお好きなのですか?
(金井会長) それが、必ずしも時代の激変だけをとらえているわけじゃなく、浅田次郎の人間の美学が、彼の持っている人間の美質をここにこう書いているというか、あの人間像は面白いです。

経営者に大切な2つのマインドとは?

(井上) 人間の気持ちの部分を含めて、いい作品ですね。
最後に1つだけお聞きしたいのですが、まさにこれから会社を担う役員の方々に、今日、講演に来ている方々に、(金井会長)からメッセージをいただけないでしょうか?
(金井会長) そうですね。たくさんあるのだけど。
1つ言えることは、経営者の仕事は、やはり社員に夢と希望を与えるということが非常に大きな仕事だと思います。
単に夢と希望を与えるだけではなく、それを実現できるのだという、しようという、そこまでその気にさせる。それが大切な役目です。
そのためには、渋沢栄一先生の言葉にありました、
夢なくして理想なし。
理想なくして信念なし。
信念なくして計画なし。
計画なくして実行なし。
実行なくして成果なし。
成果なくして幸福なし。
ゆえに幸福を求めるものは夢なかるべからず。
これは確かだと思うのです。
(井上) 夢のループですね。
(金井会長) やはり、ああいう言葉を見ていると、昔の経営者の方ですごく立派なことを言っている方がたくさんいましてね、温故知新ではないけれども、自分も夢を持っている、そんな経営者であってほしいと思います。
それと、最近の新聞で扱われるものも、いろいろなところで教育されるものもそうなっているのだけれど、ソロバンが夢であるかのように扱われている。私はこの風潮はいけないと思う。
ロマンがあってソロバンがあるのであって、ソロバンをロマンにしてしまっている経営者は、どうなんだろうと思います。
お金を儲けることが自分のロマンであるということを平気で言う経営者の人がいるのだけれど、私は違うと思っています。
ロマンというのは世の中にこういうふうに貢献するんだ、こういうふうに人々のためになるんだというのが、ロマンであるべきだと思います。
それさえあればお金儲けでも何してもいいのですけど、世の中にこういう貢献をしたいというのがロマンだと思います。
そして、ソロバンも当然ついてこないと事業は成り立ちません。
金儲けることが企業の目的だっていう言い方の風潮がはびこりすぎています。
私は、ロマンを達成することに拍手すべきであると思いますが。
どうなのでしょうか。

経営における企業のロマンの必要性とは?

(井上) 今のお話、すごく面白い観点があるのは、企業によっては、ロマンの前によく社長が発表する時に、経営規模拡大ということを前面に出す経営者が少なからずいらっしゃいます。
そのときに、ロマンを感じない時に、従業員や、お客様がついて来るかっていうところは、今のお話でいうと難しいですね。
儲けて何ぼだと、何なんだよという話もありましたし。
(金井会長) 企業ですから、それも嘘じゃないですよ。
(井上) ただ、それが1番上にくるときに、先ほどの夢のループについて来る人が、どれくらいいるだろうかいうのが、すごく、今、面白く感じます。
(金井会長) 面白いですか?
(井上) ええ。
正直にいうと、つい、ソロバンの方に行ってしまうときが我々もあるもので、目指すのはそうじゃないっていうお話、ロマンの話っていうのは、かなり痛いところのお話をうかがったような気がします。
(金井会長) (笑)
(井上) マツダさんは確かそうですね。ズームズーム以降を含めて、何万台売るとかとういところの話は表に出ないですね。
(金井会長) 言ってはいますけれどね、それを連呼はしないですね。
(井上) そうですね。
つい最近の話では、ある大手さんが舵取りを変えたばかりですが、ひょっとしたら、今の(金井会長)の数字ではなくロマンというところが関係しているのかもしれませんね。
(金井会長) 例えば、規模感としての数字。それは別に悪いことではないと思うのですけれど、それが独り歩きしていけないですね。
それだけが目標みたいになってしまっては、やはりいけないと思いますね。

社員に夢と希望を与えることの3つの意味とは?

(井上) そこをうまくつなぐのが経営者の方の役割になるということですね?
(金井会長) そうだと思います。
社員に夢と希望を与えて、それから、情熱と誇りと自信をもって仕事をしてもらえるようにする。
それが経営者の役目です。
そのキーワードの中に、儲かるから、儲かるから、儲かるからだけではいけません。
今のキーワードの中に夢がありますか。
儲かることが夢でしょうか。
儲かれば希望があるのでしょうか。
情熱、儲けることが情熱でしょうか。
誇り、儲かったから誇りでしょうか。
自信、儲けることが自信でしょうか。
全て金儲けだけですか。
ふうん、何だか寂しい人生だなあと思いませんか。
そうではないと思います。
例えば、隣のあの人が喜んでくれた。ということでさえ、われわれにとっては喜びなのです。
そのために仕事をするということもあるわけです。
(井上) そういう人が経営者なら、会社自体が変わる気がします。
(金井会長) か、どうかわかりませんが、そういう側面もあるのではないでしょうか。
(井上) 話は変わりますが、今日は本当にたくさん質問が出ましたね。 けれど、そうではないときもあるのです。 会長のお話をお聞きして、何かみなさんの心に響いたものがあったのだろうと、今日はつくづく感じました。 どうもありがとうございました。
(金井会長) ありがとうございました。