TOTO株式会社 代表取締役会長 兼 取締役会議長 張本 邦雄氏に、これまでのご経験の中で培ってきた、成功確率を上げる意思決定の要因、全社最適の観点から見た知識習得方法などについて、お話をお伺いいたしました。同時に、経営者・経営幹部の方に向けての力強い動画メッセージもいただいております。ぜひご覧ください。

インタビュアー:一般社団法人日本能率協会 久保田

特別メッセージ動画 
~新任取締役・執行役員の方々へ

意思決定に重要なポイントとは?

(久保田) 張本様が経営者、幹部の意思決定とリーダシップのセミナーを11年前に、受講者としてご参加いただいたということで、本日もお話をいただきました。当時のことを思いおこしていただいて、張本様が経営者としてこのセミナーを、受けた時のご感想をお聞かせいただければと思います。
(張本会長) 一番大きいのが、ちょうど当時、国内の改革をやっている時期でした。
多少、自慢話になるかもしれませんが、まったく新しい体制に変えている最中でした。
実は、「世の中にない仕組み」を作ろうと思っていたのですが、その「世の中にない仕組み」というのは、うちの業界にないだけで、他の業界をみると同じような仕組みがあったのです。
それでうちの業界なりに、カスタマイズしていくという作業をしていた最中でしたね。
その為に僕は籠屋先生から教わった、過去の分析、振返り、ないしは過去の意思決定のプロセスは影響が大きかったと思います。
これは、将来、新しいことに対して、役に立たないことは無い。
必ず、意思決定に大きな影響を与えるのだと、『自信』をいただきました。
大変タイムリーだったと思います。

成功確率を上げる意思決定の要因とは?

(久保田) 経営の意思決定にあたり、要因といいますか、影響因子についてお話を伺いできればと思います。
経営者の方々は常に成功確率の低い意思決定を、求められているというお立場の中に、いらっしゃると思います。
今日もお話の中にありましたが、張本様が一番大切にされている軸となるお考えがございましたらお聞かせいただければと思います。
(張本会長) 1つは意思決定をする上で、影響する因子をどのくらいだせるかということです。
これは実は、1人では限界があるので、やはり1つの意思決定をする上でボードがそこにコミットしているかどうかだと思います。
こんなところはどうなのか、この辺はきちんと見ておいた方がいいとか、ここはチェックしておいた方がいいよね、と有効な数をだすためには、ボードがしっかりしていることが必要だと思います。
そういう会社ないしは、ボードのメンバーがつくり上げられたらならば、間違いなく成功の確率は上がると思いますね。
もう一つ大事なのは、失敗したときの潔さ。
良い格好をしない。
たまたま私は、幸か不幸か上手く行ってきた方なのですけれど、でも、常に失敗したときには、責任を取るのは誰なのか!
みんなで決めるけど最終的な意思決定は、社長にあります。
意思決定者ということは、それなりの責任を取る覚悟がいるということだと思います。

ボードメンバーから影響因子を引き出すポイントとは?

(久保田) 今のお話のポイントの中にボードのメンバーの皆さまのレベルを上げるということがありました。
影響因子をより網羅的に挙げるということだと思うのですが、そのボードのメンバーの方々が自分の担当分野以外のところも目を向けるという部分で、張本様が気をつけてやってこられたことについて、少しお話を聞かせください。
(張本会長) 私が社長になる前、ボードのメンバーは担当分野以外の取り組みに対し、それは「ちょっとおかしいんじゃないか」、「それ違うよな」という思いをみんな持っていたはずです。
逆に言うとそのくらいの、バックボーンがないと、役員になっていないと思いますね。
それをいかに普通に引きだしてあげられるのか、ないしは言える環境を作るのか、そういうことがまず大事だと思います。
それは、社長の役割だと僕は思います。
そのあとは方法論ですから。

全社最適のための勉強の線の引き方とは?

(久保田) 意思決定者としての良い格好をしない、というお話がございました。社長に御就任されてから、ずっと営業をご担当されていたので全社最適で考える上では、わからないことも多かったと仰っていました。
そういう時に、「わからないことは、わからない」と言って常に勉強されていらしたのではないかと思います。
後輩経営者の方々も、自部門のところについては、多分、自信があってステップアップされていると思います。
そうではない部分について、これから知るということ、それからわかろうとする活動について、張本様が11年前に役員になられた時から振返っていただいて、何か努力されてきたことは、ございますか?
(張本会長) 「どのレベルまで理解すればいいのか?」ということだと思います。
自分の出身部門に関しては、隅から隅まで、わかっているのだと思います。
それと同じようなレベルまで横断的に、知識を持つ必然は無いと言うところからスタートすればいいと思うのです。
全社最適を実践する。
その為には全社を知らないといけない、ものすごいことを知らないといけないんじゃないかと思ってしまう。
そうではなくて、ボードとしてどの辺までの知識を持っておけば良いのかという自分なりの線引きが大事。そのために執行部門があり、経営会議があって、取締役会があるのですから。
私はそんなに複雑な話じゃないと思いますね。

社長が企業の最大のコミュニケーションツールとは?

(久保田) ありがとうございます。
今のお話の中で、これから経営者になられる方々が、自分がどういった心持ちで意思決定をするか、会社の仕組みについて、どのように思いをめぐらせて、事業をおこなっていくかというところに、大きなヒントがたくさん隠されていたと思います。
最後に、経営者の先輩として、これから経営者になる方々、後輩の経営者の方々にメッセージを一言お願いできればと思います。
(張本会長) とにかく、社長は一番忙しくなければいけない、と思います。
社長は、企業にとって最大のコミュニケーションツールだと、私は思っているので、世の中に対しても、株主に対してもそうだし、社員に対しても、お客さんに対しても、いかにコミュニケーションが、自分の仕事であるかということを、肝に銘じておくことだと思います。
あとは、それぞれの人柄があるわけで、それを全面に押し出して仕事をされればいいと思います。
(久保田) 本日はどうもありがとうございました。
(張本会長) ありがとうございました。

※張本氏には、第22回経営者・幹部の意思決定とリーダーシップセミナーでのご講演後、本インタビューにご協力いただきました。