谷口 氏

株式会社安藤・間  執行役員 技術研究所長 
谷口 氏

日本能率協会は1982年から、トップマネジメント層の経営力向上に貢献するべく、「トップマネジメント研修」を開催しています。
その中でもとくに人気の高い「新任執行役員セミナー」に昨年度にご参加いただいた株式会社安藤・間 執行役員 技術研究所長 谷口氏に研修の感想を伺いました。インタビュアーは日本能率協会の勝田と黒坂が務めました。(本文中敬称略)

畑違いの人々との交流による新たな知見

(勝田) 谷口さんの現在の立場とお仕事内容について教えていただけますか?
(谷口) 現在は技術研究所の所長をしています。時勢に合わせて建設業界で必要な技術の開発を本部としてリードしたり、現場でのトラブルや難しい課題にスペシャリストとして対応するのが主な役割です。また、土木や建築などの学協会で活動する研究員のマネジメントや、研究施設の管理、経営層への説明など、研究に関するマネジメント全般も担当しています。
(勝田) 昨年11月に「新任執行役員セミナー」参加されましたが、参加を決められた経緯や背景を教えてください。
(谷口) 現在当社では、社員を大切にすることを大きな方針の一つとしており、特に人材育成に力を入れています。キャリア開発部が主導して、新人からベテランまでさまざまなキャリアの社員が研修を受けています。今回、新任の執行役員には社外の研修を受ける機会が与えられました。研修先は「自分で選んでみて」と言われたので、JMAのカリキュラムに参加させていただきました。
(勝田) なぜ私どものプログラムを選ばれたのですか?
(谷口)建設業界の役員で、研究所の所長というのは珍しいかもしれませんが、普段仕事で関わるのは、自分と同じか近い分野の方が多いんです。研修では、全く別の分野の役員の方と交流したり、一緒に学んだり、刺激を受けたりしたいと思いました。そこで、さまざまな業界や出身の方と出会える研修を受けてみることにしました。
実際参加してみて、本当に面白かったです。何万人という社員を束ねる大手企業の経営企画の方や、事業部の方と話せました。技術系では、食品業界の技術本部長の方から聞いた小麦の話が新鮮でした。他にもベンチャー業界、年間で140回もゴルフに行く金融業界の方など、多種多様なカルチャーに触れて刺激を受けました。

技術系の役員として、マネジメントについて学ぶ

(黒坂) 技術研究所長という視点から印象に残ったことはありますか?
(谷口) 多くの役員の方とお付き合いさせていただいていますが、技術畑の出身者はあまり多くないように感じます。技術分野では自信があっても、マネジメントや人に関わる分野では教えてもらう立場です。研修後に社内の勉強会でLGBTQ+を題材にしたとき、JMAの研修で日本アイ・ビー・エム株式会社特別顧問の福地敏行さんから聞いた話をする機会がありました。
福地さんの講義で、アイデンティティについてカミングアウトした部下に対し、「そうかなと思っていた」と返すのはNGだと教えてもらいました。「よく言ってくれた、ありがとう」という風に受け止めるべきだというお話が、とても印象に残っています。
まさに同じ題材だったので、「この間の役員向け外部研修で、こういう話を聞いたよ」と話したところ、「おお~」と感心されまして。後に経営企画部の部長から「なかなか出てこない話が、技術系の役員から出てきてよかった」と声をかけられました。確かに研究所長の役員が性的多様性について勉強する機会は滅多にないので、とてもいい経験になりました。
(勝田) 異業種の方との交流を通して、ネットワークを広げられると期待されていましたが、心配だったことや気になったことはありましたか?
(谷口) 心配というよりは、「どんな人たちが来るのだろう」という期待感やわくわくする気持ちの方が大きかったです。もっと若かったら、緊張したりドキドキしたりする部分もあったかもしれません。3日も普段の仕事を離れて非日常を体験できるぞ、という感覚でした。
自分で選んだ研修でしたし、大抵こういう場には元気でフレンドリーな方やムードメーカーになってくれる方がいると思っていました。別世界を探索しに行くような気持ちで、「留守中に何かトラブルが起きたらどうしよう」という心配はありましたが、研修に対する不安はあまりなかったですね。
(勝田) 研修の3日間全体通して、率直に感じたことや、事前に期待されてたことについての感想をお聞かせください。
(谷口) 自分の仕事に一番活かせそうだと思ったのは、リーダーシップの話です。専門のセクションを預かる身として、福地さんから聞いたお話はとても印象に残っています。風通しのよさとは何かの具体例や1on1で話をする重要性、部下の成長を促す方法、情報収集の環境などは、実際に自分が今後組織を動かしていくうえで役立てられそうです。
他の講師の話もどれも面白かったです。普段の研究所の仕事では触れることのない経営や経済の視点や、事業会社全体に関わる話が多かったですよね。論語の話は特に面白かったので、本を買いました。紹介いただいたリーダーシップ論の本も購入しました。まだ読み切れていませんが、今後も勉強していきたいと思っています。

執行役員の在り方について見つめ直すきっかけに

(勝田) セミナーの役割として、「執行役員としてのマインドセット」があります。この点についてはいかがでしたか?
(谷口) 他の参加者の方と話していると、「自分が主に担当するセクションで成果を上げつつ、複数の事業を切り盛りしていくバランスで苦労している」「他と比べて自分の事業部はうまくいかず、成果を上げるために複数人で参加している」といった声を聞きました。規模の大きな企業では、それぞれの執行役が持つセクションへの責任があり、他の部門と比べながら戦っているんだな、と感じました。当社でも支店長同士であれば、似たような状況なのかもしれません。逆に、私が担当する研究所は一つしかありません。他との比較ではなく、単体での価値をどれだけ高めていけるが課題です。ひとくちに執行役員と言っても、会社規模や担当部署によって求められるマインドはさまざまだという点を強く感じましたね。本当に大きな会社の方ともお話ししましたが、執行役員の数も驚くほどたくさんいらっしゃるんですよ。規模の大きさで、役員に求められる役割も違うことがわかりました。いい悪いではなく、新しい世界を知るきっかけになりました。
(勝田) 学ばれたことの中で、実際の業務に活かしているのはどんなところですか?
(谷口) 1on1については早速活用しています。人前で部下を叱ることはなかったと思いますが、研修後はより意識するようになりました。人前で大声を出さないだけでなく、「自分からやらせるためにどうするか」「本人に気づかせて話させるためにどうするか」と考えています。
先日、女性研究員と食事会をしていろいろ意見を聞く機会をもちました。「こんなによく話すんだ」と思うくらい盛り上がりました。そんな場を設けようと考えたのも、研修がきっかけだと思います。
(勝田) 最後に、この研修の受講を検討されている方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
谷口 氏

必ず面白い出会いがある3日間

(勝田) この研修で必ず成果を持ち帰らないといけないとか、成長しないとダメと気負う必要はないと思います。3日間の宿泊研修では、通常では接点を持てない他の会社の役員と共に学んだり、話したり、食事をしたりします。「いろんな人がいて面白いことがある」と、3日間を楽しむぐらいの気持ちで参加してみてはどうでしょう。もちろん学ぶ姿勢は大事ですが、素直に聞いていれば必ず強く印象に残る言葉や気づきが得られるはずです。私はあまり肩に力を入れずに自然に参加しましたが、他社の役員や講師の方との時間は、とてもいい経験になりました。
別のグループで参加したメンバーも、やはりキーになる言葉を持ち帰っていました。あれだけの講師陣や参加者がいる素晴らしい環境では、どんな分野・業界の役員でも得るものがあると思います。